【公開日:2020年9月5日】

ヒルズの「尿ケア・s/d」をすすめられたんだけど、全然食べなくて困った・・・
何かいい対策ないかな?
「尿ケア・s/d」は、ストルバイトを溶かす時に使う療法食です。
メーカーからの発表でも、「ストルバイト尿石の溶解時の管理に最短6日(平均13日)で役立つことが証明されている」優秀なフードです。
しかし、10年以上ペット栄養管理士の仕事をしている私の経験上、2頭に1頭くらいの割合で食べてくれません(泣)
食べてくれないことには効果を発揮しようがないので、困ったものです。
ですが、「尿ケア・s/dを食べない」という相談を受けてきた多数の経験から、食べない時の対策も十分に行うことができます。
この記事では、「尿ケア・s/dを食べない時の原因や対策」をご紹介していきたいと思います!
この記事でわかること
尿ケア・s/dとは
尿ケア・s/dは、ストルバイト尿石(またはストルバイト結晶)を溶かすための専用フードです。
予防のために長期間与えるのには向いておらず、メーカーからは「6か月以上の給与はすすめられない」とされています。
〈猫用〉s/dは一時的給与を目的として使用してください。〈猫用〉c/dマルチケアを与えていて尿石症やFLUTDが再発する症例を除き、長期間給与(6ヶ月以上)することは勧められません。
尿ケア・s/dがストルバイト尿石を溶かせる仕組みを説明します。
ストルバイト尿石は、以下のフードを食べているとできやすいです。
- 尿のpHがアルカリ性になるフード
→性質上、尿pHがアルカリ性になるとストルバイト尿石はできやすい。
- リン、マグネシウムが多いフード
→リンやマグネシウムが、ストルバイト尿石の材料になる。
尿ケア・s/dはストルバイト尿石を溶かすため、上記と反対の栄養バランスで作られているのです。
尿ケア・s/dの栄養バランス
- 尿のpHが酸性になる(5.9-6.1)
- リン、マグネシウムが少ない
尿ケア・s/dを食べない原因
しかし猫の味覚上、リンやマグネシウムが少ないフードは、猫にとって「おいしい」とは感じにくいです。
以下の例を見てみると分かりやすいかもしれません。
- リンを多く含む食材
→肉類 - マグネシウムを多く含む食材
→魚
つまりs/dの中には、猫にとって好きな「肉や魚」の成分が少ないのです!
よって、「尿ケア・s/dがおいしくない」と思われている可能性が高いです。
メモ
ですがストルバイト用のフードでは、リンやマグネシウムを少なくすることが不可欠です。
よって、「香り」や「リンやマグネシウム以外の成分」を使って食べやすくすることが必要です。
尿ケア・s/dにはそれらの工夫が足りないと言えるかもしれません。
また主観も入りますが、猫は平たく丸い粒の形のほうがよく食べる印象があります。
逆に、円柱型の粒の形を好きでない猫が多いです。
尿ケア・s/dは円柱型の形をしていて、これも食べない原因の一つかもしれません。
尿ケア・s/dを食べない原因
- リンやマグネシウムが少ない
- おいしくするための工夫(香りや成分)が足りない
- 粒の形がイマイチ
「尿ケア・s/dを食べない」時の対策5選
①ストルバイトを溶かせる他のフードを使う
「尿ケア・s/dを食べない」ときに、いちばん手っ取り早いのは、以下の条件を満たす他のストルバイト用フードを試すことです。
- おいしくするための工夫がされている
- 粒の形が、尿ケア・s/dとは違う
ここから、上記のようなフードを3つ紹介していきます。※すべて療法食です。
ユリナリーS/O オルファクトリー
ユリナリーS/O オルファクトリーは、ロイヤルカナンのストルバイト尿石を溶解できるフードです。
商品名のオルファクトリー(Olfactory)は、「嗅覚」という意味です。
つまり猫の嗅覚を刺激する工夫がされている、ということです。
商品カタログには、以下のように書かれています。(重要な部分を太字にしました)
猫用ユリナリーS/O オルファクトリーは、下部尿路疾患(ストルバイト尿石症およびシュウ酸カルシウム尿石症)の猫に給与することを目的として、特別に調整された食事療法食です。
この食事は、マグネシウムなどのミネラル成分を調整しています。
また食欲をそそる独自の香り組成※に調整しています。
※独自の香り組成が何なのか、はお客様相談室に問い合わせしても企業秘密ということで回答はもらえませんでした。
ですが、ロイヤルカナンの香りづけの技術は「パラタント」と呼ばれ、動物業界では「猫がよく食べる」と定評があります。
またユリナリーS/O オルファクトリーは、ナトリウムが多めです。
ナトリウムは猫にとって「おいしい」と感じる成分の1つです。
また飲水量が増えやすくなるため、ストルバイト尿石を溶かす作用を促進してくれます。
メモ
ナトリウムが多いフードは腎臓に負担をかけるリスクがあり、7歳以上のシニア猫にはおすすめできません。
一方、「若い猫ではそのリスクはない」という文献が発表されていますので、7歳未満の猫であれば問題ないでしょう。
粒の形は、ゆるやかな丸形をしています。
ユリナリーS/O オルファクトリーまとめ
- 尿pH:6.0-6.5
- 特殊な「食欲をそそる香り」の技術が使われている
- ナトリウムが高めで、おいしいと感じやすい
- ゆるやかな丸形の粒
- 7歳以上の猫はおすすめしない
太り気味の猫用の、ライトタイプもあります。
体重が気になる猫は、ライトのほうがおススメです。
FSD 低pHスターター
FSD 低pHスターター(以下、FSD)は、スペシフィックから発売されているストルバイト尿石用フードです。
FSDもナトリウムを多めに含有しているため、味はおいしいと感じやすいです。
とはいえ、ユリナリーS/O オルファクトリーの半分くらいの量であるため、7歳以上の高齢猫でも気にせず与えることができます。
以下、病院向けの製品カタログの記載です。
ストルバイトの構成成分であるリン、マグネシウムの含有量を制限することで、ストルバイト尿石症の猫に配慮しています。
また、ミネラルを含む成分量を調整することで、低pH尿の産生を助け、ストルバイトが析出(結晶化)しにくくなっています。
ナトリウム含有量の増量により飲水量が増加し、尿量の増加に配慮しているため、尿中のストルバイト構成成分の希釈につながります。
特にストルバイト尿石症に配慮した療法食の投与を開始する猫に適しています。
また原材料の中に「魚粉」が使われており、魚の香りが強いです。
よって、魚味のフードに慣れている猫がよく食べてくれる印象があります。
FSDの原材料は、以下の通りです。
FSDの原材料
卵、トウモロコシ、動物油脂(豚)、トウモロコシでんぷん、トウモロコシ蛋白、ジャガイモ蛋白、米、魚粉、ミネラル類(Ca、K、Na、Se、I、Fe、Cu、Zn、Mn)、小麦、粉末セルロース、蛋白加水分解物(魚)、ビタミン類(VA、V B 1 、V B 2 、V B 6 、VB12、ナイアシン、コリン、パントテン酸、ビオチン、葉酸、VC、VD3、VE、VK)、塩化アンモニウム、魚油、メチオニン、タウリン酸化防止剤:BHA、BHT、没食子酸プロピル
粒の形は平たい丸形をしています。
FSDのまとめ
- 尿pH:6.0-6.3
- ナトリウムがやや高めで、おいしいと感じやすい
- 魚の香りが強い
- 丸くて平たい粒
ストルバイトケア スターター
ストルバイトケア スターターは、Dr's careシリーズのストルバイト用フードです。
同じシリーズで「ストルバイトケア」というものもありパッケージもそっくりです。
間違えないように注意してください。
ストルバイトケア スターターは国産です。
そのため輸送期間が短く、鮮度が保ちやすいため、食べつきがいいと評判です。
「開けたて時間が経ったフードは食べない」など鮮度を重視する猫も多いため、これは大きなメリットです。
メモ
多くの療法食は海外産で、日本へ輸入しています。よって製造してからわたしたちの手元に届くまでに時間がかかり、国産に比べ鮮度が落ちやすいです。
また魚とチキンをメインとした、複数の香りづけ原材料を使っていることも、食べつきの良さの理由かもしれません。
以下が原材料リストです。
太字が、香りづけのために使われていると考えられるものです。
ストルバイトケア スターターの原材料
コーングルテン、トウモロコシ、ミートミール、動物性油脂、全卵粉末、フィッシュエキス、フィッシュオイルパウダー、 フィッシュミール、フラクトオリゴ糖、おから、セルロース、チキンレバーパウダー、小麦粉、ビール酵母、ビタミン類 (A、E、K3、B1、B2、パントテン酸、ナイアシン、B6、葉酸、ビオチン、B12、コリン、イノシトール)、ミネラル類(カルシウム、リン、ナトリウム、カリウム、塩素、鉄アミノ酸複合体、鉄、コバルト、銅アミノ酸複合体、銅、マンガンアミノ酸複合体、マンガン、亜鉛アミノ酸複合体、亜鉛、ヨウ素)、アミノ酸類(メチオニン、タウリン)、酸化防止剤(ローズマリー抽出物、ミックストコフェロール)
粒の形は、細長い俵形をしています。
ストルバイトケア スターターのまとめ
- 尿pH:5.9-6.1
- 国産で鮮度が高い
- 4つの香りづけの原材料
- 細長い俵型の粒

でも尿ケア・s/dをなんとか食べさせたいんだけど。
いい方法はないの?
次からは、「尿ケア・s/dをどうにか食べさせる方法」を紹介していきます。
どれかがうまくいくかもしれません。
②今までのフードと混ぜて与えてみる
尿ケア・s/dにかぎらず、猫は警戒心がつよい生き物です。
そのため、新しいフードを出してもすぐに食べてくれないことはよくあります。
そこで今までのフードと混ぜて与えてみる、というのは有効な方法です。
今までのフードの味や香り=安全、と認識しているため、尿ケア・s/dへの警戒心が弱まります。
③手から与えてみる
尿ケア・s/dの粒を手に乗せて与えてはじめてみるのも、猫の警戒心を解くいい方法です。
飼い主さんの手=安心、と認識しているからです。
「フードをお皿から食べなくても、飼い主の手からなら食べる」ということはよくあります。
動物病院のスタッフも、新しいフードを与え始める時にはよく使っている方法です。
④温めてみる
またフードを温めてみるのもよい方法です。
- 数秒レンジでチン
- ドライヤーの熱で温める
など試してみてください。
「40℃くらいのものを猫はいちばんよく食べる」という研究があります。
狩りをしていた祖先の時代、生きた獲物の体温は40℃くらいですから、それくらいの温度ものがおいしいという本能が働くのでしょう。
ただしレンジのほうは特に温めすぎ注意です。
⑤においをつけてみる
もし猫の好きな香りを把握しているなら、その匂いを尿ケア・s/dにつける方法もあります。
好きな香りが「にぼし」だったと仮定します。
- にぼしを空のだしパックに入れる(100均などで売ってます)
- だしパックの口をしばる
- 2を尿ケア・s/dが入っている容器や袋に入れて1日~2日放置する。
これで「にぼし風味の尿ケア・s/d」のできあがりです。
ぜひ試してみてください。
※にぼしを直接フードに入れたりしないでください。マグネシウムやリンなどがフードに混ざり、ストルバイトへの効果が薄くなります。
「尿ケア・s/dを食べない時の原因や対策」についての記事は以上となります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!